一人親方にふりかかる建設業法違反
日常的に行われている建設業法違反が慢性的となり一人親方様の不利益になるケースがあります。
ここでは、一人親方様が知っておくべき建設業違反を記述します。
1.指値発注(建設業法第19条第1項、第19条の3、第20条第3項)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
①発注者が、自らの予算額のみを基準として、受注者と協議を行うことなく、一方 的に請負代金の額を決定し、その額で請負契約を締結した場合
②発注者が、合理的根拠がないにもかかわらず、受注者の見積額を著しく下回る額 で請負代金の額を一方的に決定し、その額で請負契約を締結した場合
③発注者が複数の建設業者から提出された見積金額のうち最も低い額を一方的に 請負代金の額として決定し、当該見積の提出者以外の者とその額で請負契約を締 結した場合
【建設業法上違反となる行為事例】
④発注者と受注者の間で請負代金の額に関する合意が得られていない段階で、受注 者に工事に着手させ、工事の施工途中又は工事終了後に発注者が受注者との協議 に応じることなく請負代金の額を一方的に決定し、その額で請負契約を締結した 場合
⑤発注者が、受注者が見積りを行うための期間を設けることなく、自らの予算額を 受注者に提示し、請負契約締結の判断をその場で行わせ、その額で請負契約を締 結した場合
上記①から⑤のケースは、いずれも建設業法第19条の3に違反するおそれがあ る。また、④のケースは同法第19条第1項に違反し、⑤のケースは同法第20条 第3項に違反する
指値発注とは、発注者が受注者との請負契約を交わす際、受注者と十分な協議をせ ず、又は受注者との協議に応じることなく、発注者が一方的に決めた請負代金の額を 受注者に提示(指値)し、その額で受注者に契約を締結させることをいう。指値発注 は、建設業法第18条の建設工事の請負契約の原則(各々の対等な立場における合意 に基づいて公正な契約を締結する。)を没却するものである。
指値発注は建設業法に違反するおそれ
指値発注は、発注者としての取引上の地位の不当利用に当たるものと考えら れ、請負代金の額がその工事を施工するために「通常必要と認められる原価」 (「3. 不当に低い発注金額」参照)に満たない金額となる場合に は、受注者の当該発注者に対する取引依存度等の状況によっては、建設業法第 19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがある。
発注者が受注者に対して示した工期が、通常の工期に比べて著しく短い工期 である場合には、工事を施工するために「通常必要と認められる原価」は、発 注者が示した短い工期で工事を完成させることを前提として算定されるべきで あり、発注者が通常の工期を前提とした請負代金の額で指値をした上で短い工 期で工事を完成させることにより、請負代金の額がその工事を施工するために 「通常必要と認められる原価」(「3.不当に低い発注金額」参照) を下回る場合には、建設業法第19条の3に違反するおそれがある。
また、発注者が受注者に対し、指値した額で請負契約を締結するか否かを判 断する期間を与えることなく回答を求める行為については、建設業法第20条 第3項の見積りを行うための一定期間の確保に違反する(「2.見積 条件の提示」参照)。
更に、発注者と受注者との間において請負代金の額の合意が得られず、この ことにより契約書面の取り交わしが行われていない段階で、発注者が受注者に 対し工事の施工を強要し、その後に請負代金の額を発注者の指値により一方的 に決定する行為は、建設業法第19条第1項に違反する。
一人親方様は、建設工事の請負契約の締結に当たり、発注者が契約希望額を提示した場合に は、自らが提示した額の積算根拠を明らかにして受注者と十分に協議を行うな ど、一方的な指値発注により請負契約を締結することがないよう留意すべきで ある。
2.見積条件の提示(建設業法第20条第3項)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
①発注者が不明確な工事内容の提示等、曖昧な見積条件により受注予定者に見積りを依頼 した場合
②発注者が受注予定者から工事内容等の見積条件に関する質問を受けた際、発注者が未回 答あるいは曖昧な回答をした場合
【建設業法上違反となる行為事例】
③発注者が予定価格1億円の請負契約を締結しようとする際、見積期間を1週間として受 注予定者に見積りを行わせた場合
上記①及び②のケースは、いずれも建設業法第20条第3項に違反するおそれが あり、③のケースは、建設業法第20条第3項に違反する。
建設業法第20条第3項では、発注者は、建設工事の請負契約を締結する前に、下 記(1)に示す具体的内容を受注予定者に提示し、その後、受注予定者が当該工事の 見積りをするために必要な一定の期間を設けることが義務付けられている。
見積りに当たっては工事の具体的内容を提示することが必要
建設業法第20条第3項により、発注者が受注予定者に対して提示しなけれ ばならない具体的内容は、同法第19条により請負契約書に記載することが義 務付けられている事項(工事内容、工事着手及び工事完成の時期、前金払又は 出来形部分に対する支払の時期及び方法等のうち、請負代金の額を除くすべての事項となる。
見積りを適正に行うという建設業法第20条第3項の趣旨に照らすと、例え ば、上記のうち「工事内容」に関し、発注者が最低限明示すべき事項としては、
① 工事名称
② 施工場所
③ 設計図書(数量等を含む)
④ 工事の責任施工範囲
⑤ 工事の全体工程
⑥ 見積条件
⑦ 施工環境、施工制約に関する事項
が挙げられ、発注者は、具体的内容が確定していない事項についてはその旨を 明確に示さなければならない。施工条件が確定していないなどの正当な理由が ないにもかかわらず、発注者が、受注予定者に対して、契約までの間に上記事 項等に関し具体的な内容を提示しない場合には、建設業法第20条第3項に違 反する。
予定価格の額に応じて一定の見積期間を設けることが必要
建設業法第20条第3項により、発注者は、以下のとおり受注予定者が見積 りを行うために必要な一定の期間(下記ア~ウ(建設業法施行令(昭和31年 政令第273号)第6条))を設けなければならないこととされている。
ア 工事1件の予定価格が500万円に満たない工事については、1日以上
イ 工事1件の予定価格が500万円以上5,000万円に満たない工事に ついては、10日以上
ウ 工事1件の予定価格が5,000万円以上の工事については、15日以 上
上記期間は、受注予定者に対する契約内容の提示から当該契約の締結又は入 札までの間に設けなければならない期間である。
そのため、例えば、4月1日 に契約内容の提示をした場合には、アに該当する場合は4月3日、イに該当す る場合は4月12日、ウに該当する場合は4月17日以降に契約の締結又は入 札をしなければならない。ただし、やむを得ない事情があるときは、イ及びウ の期間は、5日以内に限り短縮することができる。 上記の見積期間は、受注予定者が見積りを行うための最短期間であり、より 適正な見積が行われるようにするためには、とりわけ大型工事等において、発 注者は、受注予定者に対し、余裕を持った十分な見積期間を設けることが望ましい。
一人親方様は、工事を受注する際には工事の具体的内容について確認し、見積もりを提出する。
できる限り、口頭ではなく、書面による契約が望ましい。
3.不当に低い発注金額(建設業法第19条の3)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
①発注者が、自らの予算額のみを基準として、受注者との協議を行うことなく、受 注者による見積額を大幅に下回る額で建設工事の請負契約を締結した場合
②発注者が、契約を締結しない場合には今後の取引において不利な取扱いをする可 能性がある旨を示唆して、受注者との従来の取引価格を大幅に下回る額で、建設 工事の請負契約を締結した場合
③発注者が、請負代金の増額に応じることなく、受注者に対し追加工事を施工させ た場合
④発注者の責めに帰すべき事由により工期が変更になり、工事費用が増加したにも かかわらず、発注者が請負代金の増額に応じない場合
⑤発注者が、契約後に、取り決めた代金を一方的に減額した場合
上記のケースは、いずれも建設業法第19条の3に違反するおそれがある
「不当に低い請負代金の禁止」の定義
建設業法第19条の3の「不当に低い請負代金の禁止」とは、発注者が、自 己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した工事を施工するために通常 必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を受注者 と締結することを禁止するものである。
「通常必要と認められる原価」とは、工事を施工するために一般的に必要と 認められる価格
建設業法第19条の3の「通常必要と認められる原価」とは、当該工事の施 工地域において当該工事を施工するために一般的に必要と認められる価格(直 接工事費、共通仮設費及び現場管理費よりなる間接工事費、一般管理費(利潤 相当額は含まない。)の合計額)をいい、具体的には、受注者の実行予算や下 請先、資材業者等との取引状況、さらには当該施工区域における同種工事の請負代金額の実例等により判断することとなる。
建設業法第19条の3は変更契約にも適用
建設業法第19条の3により禁止される行為は、契約締結後、発注者が原価の上 昇を伴うような工事内容や工期の変更をしたのに、それに見合った請負代金の 増額を行わないことや、一方的に請負代金を減額したことにより原価を下回る ことも含まれる。
取引上優越的な地位にある発注者が、受注者(一人親方を含む)の選定権等を背景に、受注者(一人親方を含む)を経済 的に不当に圧迫するような取引等を強いることがあります。
「この現場は赤字でお願いします。そのかわり他の現場で儲けさせます。」、「追加工事は見積もりにないので支払わない」など一人親方様が不利にならないようにしなければなりません。
まとめ
建設業法違反となる恐れのあるケース
①元請と下請(一人親方を含む)との間で請負契約の合意がないままに工事を着工し、工事の途中または完了後に元請が一方的に請負契約を締結した。
②元請が下請(一人親方含む)に見積をする期間を与えずに、請負金額を一方的に決定(指値)する。
③元請が合理的根拠もなく不当に低い金額(通常必要と認められる原価に満たない)で一方的に請負契約を締結した。