労災保険と自賠責保険との先行判断

交通事故が通勤中や業務中に発生したら労災保険、自賠責保険、任意保険のどれを選ぶべきかは労働者が自由に決定できます。
なお、帰宅途中に寄り道をした場合には、その通勤災害が逸脱・中断に該当していないかなどの確認を要します。

労災保険と自賠責保険とは

労災保険とは

労働者が勤務中や通勤中に事故や災害に遭った場合に補償される制度で、「労働者災害補償保険法」や「労働基準法」などの法律に基づき国から支給されます。

自賠責保険とは

損害保険会社や自動車の販売店で手続きをおこなう自動車を運転する際に必ず加入しなければいけない強制保険で損害保険会社から支給されます。

「自賠責保険」と「労災保険」の優先順位とは

労災保険と自賠責保険について、どちらを優先させるかについて法律の規定はありませんが、労災保険を管轄する厚生労働省から次のような通達が出ています。

「労災保険の給付と自賠責保険の損害賠償額の支払との先後の調整については、給付事務の円滑化をはかるため、原則として自賠責保険の支払を労災保険の給付に先行させるよう取り扱うこと」(昭和41年12月16日基発1305号)

このため、通勤途中や仕事中の交通事故でも、労災ではなく自賠責保険への申請が推奨されています。
ただ、通達は、労働者に対する強制力はないので、労働者はどちらの保険を優先させるのかを自由に決定することができます。

労災保険を先行した方がいい場合

事故の過失割合が自分の方が大きい時や、過失の割合を相手方と争っていて不明確な場合

自分の過失が大きい時や、過失の割合を相手方と争っていて不明確な場合は、労災申請を先行します。
労災保険を適用すれば、治療費の限度額はありません。一方、自賠責保険では、過失割合が7割以上の場合、5~2割の範囲で保険金が減額されます。

加害者が無保険又は自賠責保険(共済)のみで任意保険に未加入の場合

加害者が自賠責(共済)に加入していない場合は、自賠責保険(共済)への請求ができないため、労災申請を先行します。
また、自賠責保険(共済)には加入しているけれども、加害者が任意保険に未加入の場合、自賠責の傷害部分の支払い限度額である治療費上限の120万円(内訳として慰謝料と治療費、休業補償の全ての金額)を超えそうな場合は、治療費がかからない労災申請を先行させる。

長期の通院が必要になる場合

自賠責保険は損害部分の上限が120万円となります。長期に及ぶ治療になると治療費だけで120万を超すこともあります。
一方の労災保険は治療費がかからないため、自賠責保険と比較すると長期間の通院がおこなえる。

自賠責保険等と労災保険給付の調整

労災保険の休業(補償)給付は、給付基礎日額の80%の支給となっていますが、その内訳は、保険給付の60%、特別支給金の20%となっている。

保険給付60%部分の調整

自賠責等からの給付額を控除して支払うことになるため、自賠責から満額受領している場合には差額が生じませんが、任意保険から減額(過失割合を控除)して支払われた場合は、差額が生じることになる。

特別支給金20%部分について

保険給付と異なり、自賠責等と調整することはありません。
被災者にとっては労災保険と自賠責等の両方へ休業補償、休業損害を請求すると賃金の120%分の休業補償(休業損害)金を受け取れる計算になります。

示談を行う場合について

労災保険の受給権者である被災者等と第三者との間で被災者の有する全ての損害賠償についての示談(いわゆる全部示談)が、真正に(錯誤や脅迫などではなく両当事者の真意によること。)成立し受給権者が示談額以外の損害賠償の請求権を放棄した場合、政府は、原則として示談成立以後の労災保険の給付を行わないこととなっています。
 例えば、労災保険への請求を行う前に100万円の損害額で以後の全ての損害についての請求権を放棄する旨の示談が真正に成立し、その後に被災者等が労災保険の給付の請求を行った場合、仮に労災保険の給付額が将来100万円を超えることが見込まれたとしても、真正な全部示談が成立しているため、労災保険からは一切給付を行わないこととなりますので十分に注意してください。

まとめ

自賠責保険等からの保険金を先に受ける「自賠先行」と労災保険給付を先に受ける「労災先行」との選択は自由に決定することができます。
労災先行の判断基準として①過失割合②自賠責・任意保険等の加入状態③障害の程度などを考慮して先行順位を決定することになる。

一般的には、小さな事故でケガも軽傷であれば、自賠責を使った方が本人にとってメリットが大きいことが多い。なぜなら、自賠責には労災保険にない慰謝料があり、休業した場合の休業損害が100%てん補(労災保険の場合は80%)されるからである。

また、事故の過失割合が自分の方が大きい時や、過失の割合を相手方と争っていて不明確な場合、加害者が無保険又は自賠責保険(共済)のみで任意保険に未加入の場合、長期の通院が必要になる場合などの場合には労災先行にメリットがある。労災保険は、自分(被災者)の過失割合が高くても給付等が調整されることはないが、自賠責の場合は、自分の過失割合が7割以上であると保険金額が20~50%の間で、減額調整されてしまう。そのため社員の過失割合が高い場合は労災保険を申請したほうがよいだろう。

なお、被災者にとっては労災保険と自賠責等の両方へ休業補償、休業損害を請求すると賃金の120%分の休業補償(休業損害)金を受け取れる計算になります。
関係機関と連絡をとり検討をすることが肝要となる。

参考
大阪労働局

胆管がん 労災認定

仕事が原因で胆管がんを発症したと認められた場合、労災保険給付が受けられます。

胆管がんの発症や死亡から、長期間経過している場合も、労災として認定される可能性があります。

※業務と胆管がん発症との関係について、一定の検討結果がとりまとめられたことにより、平成25年3月14日までは、胆管がんによる労災保険の請求権の時効は進行しないことになっています。

特に次のような方はご注意ください。
◆過去に印刷機の洗浄・払拭作業のように、1,2-ジクロロプロパン、 ジクロロメタン等※を用いた溶剤に高濃度でばく露した方
◆若くして胆管がんを発症した方 (胆管がんは通常、高齢者に発症が多いとされる疾病です。)

労災認定については、都道府県労働局、労働基準監督署にご相談ください。

上肢障害の労災認定

上肢障害の労災認定基準

上肢障害とは
腕や手を過度に使用すると、首から肩、腕、手、指にかけて炎症を起こしたり、関節や腱に異常をきたしたりすることがあります。
上肢障害とはこれらの炎症や異常をきたした状態を指します。

上肢障害の代表的疾病
・上腕骨外(内)上顆炎 ・手関節炎 ・ 書痙 ・ 肘部管症候群  ・ 腱鞘炎 ・回外(内)筋症候群 ・手根管症候群

上肢障害の労災認定の要件

労災と認定されるためには、次の3つの要件すべてを満たす 必要があります。

 上肢等※に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること。

※上肢等とは、後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手、指をいいます。

「上肢等に負担のかかる作業」とは
①上肢の反復動作の多い作業
◆パソコンなどでキーボード入力をする作業
◆運搬・積み込み・積み卸し、 冷凍魚の切断や解体
◆製造業における機器などの組立て・仕上げ作業 調理作業、手作り製パン、製菓作業、 ミシン縫製、アイロンがけ、手話通訳

②上肢を上げた状態で行う作業
◆天井など上方を対象とする作業 ◆流れ作業による塗装、溶接作業

③頸部、肩の動きが少なく姿勢が拘束される作業
◆顕微鏡やルーペを使った検査作業

④上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業
◆保育・看護・介護作業
*①~④は類型を示したものであり、これらに類似した作業も「上肢等に負担のかかる作業」に該当することがあります。

「相当期間従事した」とは
原則として6か月程度以上従事した場合をいいます。

 発症前に過重な業務に就労したこと。

「過重な業務に就労した」とは
発症直前3か月間に、上肢等に負担のかかる作業を次のような状況で行った場合をいいます。

業務量がほぼ一定している場合
同種の労働者よりも10%以上業務量が多い日が3か月程度続いた

業務量にばらつきがあるような場合
① 1日の業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度 あり、それが3か月程度続いた(1か月間の業務量の総量が通常と同じでもよい)

② 1日の労働時間の3分の1程度の時間に行う業務量が通常より20%以上多い日が、1か月に10日程度あり、それが3か月程度続いた(1日の平均では通常と同じでもよい)

なお、過重な業務に就労したか否かを判断するに当たっては、業務量だけでなく、次の状況も考慮します。
長時間作業、連続作業 過度の緊張 他律的かつ過度な作業ペース 不適切な作業環境 過大な重量負荷、力の発揮

 過重な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものと認められること。

腰痛の労災認定

腰痛の労災認定

認定基準では、腰痛を次の2種類に区分して、それぞれ労災補償の対象と認定するための要件を定めています。

労災補償の対象となる腰痛は、医学上療養の必要があると認められた場合に限ります。

災害性の原因による腰痛

腰に受けた外傷によって生じる腰痛のほか、外傷はないが、突発的で急激な強い力が原因となって筋肉等(筋、筋膜、靱帯など)が損傷して生じた腰痛を含む。

負傷などによる腰痛で、①、②の要件のどちらも満たすもの

①腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突破知的な出来事によって生じたと明らかにみとめられる。

②腰に作用した力が腰痛を発生させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められる。

なお、「ぎっくり腰」は、日常的な動作の中で生じるので、仕事中に発生しても労災補償の対象とならない。

ただし、発症時の動作や姿勢の異常性などから、腰への強い力の作用があった場合には業務上と認められることがある。

災害性の原因によらない腰痛

突発的な出来事が原因でなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業時間からみて、仕事が原因で発症したと認められるもの。

①筋肉等の疲労を原因とした腰痛

比較的短期間(約3か月以上)従事したことによる筋肉等の疲労を原因として発症した腰痛は、労災補償の対象となる。

また、10年以上従事した後に骨の変化を原因とする腰痛が生じた場合も労災補償の対象となる。

②重量物を取り扱う業務に相当長期間(約10年以上)にわたり継続して従事したことによる骨の変化を原因として発症した腰痛は、労災補償の対象となります。

脳血管疾患の労災認定

脳・心臓疾患の労災認定要件として

1 対象疾病としては、

脳血管疾患
●脳内出血(脳出血)  ●クモ膜下出血  ●脳梗塞  ●高血圧性脳症

虚血性心疾患等
●心筋梗塞  ●狭心症  ●心停止(心臓性突然死を含む)  ●解離性大動脈瘤

労災を申請するには、上記の対象傷病を発症しており、なおかつ業務起因性(業務が原因)で「脳・心疾患になるほどの負担を仕事から受けている」ことを証明する必要があります。
脳梗塞や脳卒中、心筋梗塞などの脳や心臓に関わる病気はその発症した原因が日常生活による諸要因(本人の生活習慣や食生活、健康状態、過去の病歴)や遺伝等による要因により形成され、それが徐々に進行及び増悪して、あるとき突然発症します。
このような場合に、「業務が原因で発症または業務との因果関係があるのか」について明確に判断しにくいケースが少なくありません。

労災保険で認定されるには、脳梗塞の発症が業務に起因することが明らかであると認められる必要があります。
判断基準としては厚生労働省の「脳・心臓疾患の認定基準」に基づいて行われますので、次の認定要件を確認して下さい。

2 脳・心臓疾患の労災認定要件として

1) 異常な出来事はなかったか
発症直前の前日までにおいて、発生状態を時間的・場所的に明確に特定できる異常な出来事に遭遇していること
①精神的負荷 たとえば、業務に関連した重大事故に遭遇して著しい精神的負荷を受けた
②身体的負荷 たとえば、事故の発生に伴って、事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた。
③作業環境の変化 たとえば、屋外作業中、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態
や特に温度差のある場所への頻回な出入りなど

2) 短期間の過重業務
発症時期付近において、特に過重な業務に就いていること
たとえば、発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるか否か

3) 長期間の過重業務
発症前から長期間に渡って著しい疲労を蓄積させるような過重な業務に就いている
たとえば、
①おおむね45時間を超え時間外労働をしている
②発症前2カ月間ないし6ヵ月間にわたって、1カ月あたりおおむね80時間を超える
残業をしている
③発症前1ヵ月間の残業時間がおおむね100時間を超えている

お仕事でのケガに健康保険で治療

お仕事でのケガ等に健康保険を使うと、一時的に治療費の全額を自己負担する

労働災害によって負傷、または病気にかかったにもかかわらず、健康保険を使って治療を受けた場合、治療費の全額を一時的に自己負担することになります。
労働災害であるにもかかわらず、健康保険で治療を受けた場合の手続きとして、

受診した病院に、健康保険から労災保険への切り替えができるかどうかを確認して下さい。

① 切り替えができる場合

病院の窓口で支払った金額(一部負担金)が返還される

→労災保険の様式第5号または様式第16号の3の請求書を受診した病院に提出して下さい

② 切り替えができない場合

一時的に、医療費の全額を自己負担した上で、労災保険を請求する

→労災保険の請求方法
イ 健康保険の保険者(協会けんぽ等)へ労働災害である旨を申し出る
ロ 保険者から医療費の返還通知書等が届きますので、返還額を支払う(*1)
ハ 労災保険の様式第7号または様式第16号の5を記入の上、返還額の領収書と病院の窓口で支払った金額(一部負担金)の領収書を添えて、労働基準監督署へ請求する(*2)
(*1) 納付書が送付されるまでに時間がかかる場合がある
(*2)労災請求の際にレセプトの写し(コピー)が必要となりますので、健康保険の保険者へ依頼する

一時的に医療費の全額を自己負担するのが困難な場合は・・・・

イ 労働基準監督署へ、いったん全額を負担せずに請求したい旨を申し出る
ロ 労働基準監督署で保険者と調整を行い、保険者への返還額を確定する
ハ 保険者から返還通知書等が届きますので、労災保険の様式第7号または第16号の5を記入の上、返還通知書等を添えて、労働基準監督署へ請求する)(*3)
(*3) 病院の窓口で支払った金額(一部負担金)については、イ~ハとは別の手続きが必要となりますので、労災保険の様式第7号または第16号の5をもう一枚を準備し、必要事項を記入の上、労働基準監督署へ請求する。

参照
(業務中に負傷した場合はどうする)

労働者か請負人かの判断に迷ったら

働き方の違いや特徴で判断する

作業現場において請負人か労働者かの判断に迷うことが少なくありません。

判断に迷ったら次の働き方に照らしてどちらかを総合的に判断してください。

労働者性の強い働き方請負人性の強い働き方
①仕事の依頼や業務従事の指示に従わなければならない①自分の意思と責任で仕事をしている
②勤務場所や勤務時間が指定され管理されている②報酬は事業所得として税務署に自己申告している
③自分に代わって他の者が労務を提供することは許されない③一人親方の労災保険に「特別加入」している
④仕事に必要な工具等は会社から支給され自分のものを持ち込む必要がない④営利性をもって反復継続して事業を行っている
⑤就業規則や服務規律等社内規定が適用される⑤報酬は「時間、日、週、月」単位で計算されるものではない
⑥報酬は給与所得として源泉徴収されている⑥他人の代替による役務の提供が可能である
⑦出勤簿による管理をおこなう⑦報酬の支払い社から指揮監督を受けていない
⑧始業・終業・休憩の時刻が決められている⑧請負代金は自分の計算で見積って請負契約を締結している
⑨残業・休日出勤等の指示に従わなければならない⑨事業拠点及び屋号を持っている
⑩業務の内容や遂行方法について具体的な指示を受けている⑩作業の完成及び労働者の使用について財政上、法律上のすべての責任を負っている
⑪自分の判断で勝手に他社の仕事に就くことは許されない⑪作業に必要な工具、材料、資材等は自ら所持し又は自ら調達している
⑫報酬には固定部分がありその額は生活を維持するための要素が強い⑫専門的な技術、経験を有し単に肉体的な労働を提供するものではない
⑬報酬は「時間・日・週・月」のいずれかを基準にして計算される
⑭報酬は一定期日に一定額が支給される。賃金台帳、作業員名簿等により就労が管理されている

除染作業を行う場合

一人親方様が除染作業を行うようになった場合は連絡下さい

● 除染作業に従事する「一人親方」の災害も労災保険の補償対象になる

「建設業の一人親方」として労災保険に特別加入することにより、除染作業で災害にあった場合、労災保険の補償を受けられます。

● すでに特別加入している方は、変更届が必要

すでに建設業一人親方労災保険に特別加入している方が、東日本大震災の復旧・復興のた新たに除染の業務に就く場合には、業務内容の変更が必要になります。
したがって、除染作業を行うようになった場合は、迅速・適正な労災補償を行うために、当組合にご連絡をお願いします。

● 被ばく線量管理

労災保険の特別加入者が除染作業に従事する場合も、迅速・適正な労災補償のため、労働者と同様の線量管理をする。

参考
(除染作業を行う場合)

労働保険年度(4月~翌年3月)を終えて労災保険に継続して加入

一人親方労災保険への継続確認を電話等で行います

毎年1月~2月にFAX・書面及び架電にて翌保険年度4月以降の一人親方労災保険加入を確認いたします。
その際に、継続加入の有無及び給付基礎日額を確認いたします。
更新には期日があります。
更新期日を過ぎると更新確認が取れない場合には「更新しない」とみなして手続きをいたします。

ご多忙なところ、ご協力お願いします。

従業員を常時雇用するようになった場合

一人親方様が従業員を使用するようになった場合はご連絡ください

常時、従業員を年間100日使用するようになった場合は一人親方労災保険を脱退し、中小事業主の労災保険に加入しなければなりません。
したがって、一人親方の加入を脱退することになります。
従業員を年間100日以上雇用する状態では労災事故が起きた場合、一人親方の労災保険は補償の対象外になります。
年間100日とは、1日に10人働いても、1日として計算します。

そのため、従業員を年間100日以上雇用するようになった場合には、北海道にお住まいの方は、中小事業主として、当労働保険事務組合に加入することをお勧めします。

参考

(特別加入者の範囲)

(貴組合に加入できる地域はどこですか)

(中小事業主)

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